「京友禅ってどんな着物なの?」
「京友禅の値段相場っていくらぐらいなのかな…」
「京友禅の作家ってどんな人がいるの?」
こんにちは。『着物買取女将』のかずよです。
京友禅は三大友禅に数えられる京都が生んだ高級織物ですが、その特徴をしっかりと理解できている人は多くありません。
私も友禅の着物に興味があるのですが、それぞれの違いがよく分からなくて…
友禅の着物は素敵ですが、三大友禅の違いなどを正確に理解するのは難しいものですよね。
でも安心して下さい。
今回は京友禅の着物や柄の特徴、値段相場、有名作家の落款、他の友禅の着物との違いなどを分かりやすくお伝えします!
そもそもの友禅染めの着物の特徴や歴史などについてはこちらの記事で詳しく解説しているので、基礎から知りたい方はこちらの記事からご覧下さい。
>>『友禅染めの着物とは?模様や柄の種類や歴史、有名作家などを紹介!』
この記事の目次
京友禅とはどんな着物?特徴や魅力を解説!
京友禅は、京都で生産される染めの着物です。
京都の「京友禅」、金沢の「加賀友禅」、東京の「東京友禅」は「三大友禅」と呼ばれ、各地の友禅の中でもとくに有名です。
なかでも京友禅は、友禅の始まりとされる特別な友禅なのです。
京友禅は京都発祥の高級織物
京友禅は京都の伝統工芸品で、たいへん高級なことでも知られています。
友禅染と呼ばれる独特の染色法を用い、本格的な手描きの作品になると完成までに長い時間が必要です。
そのため現在では、手描きのものに比べると手間の少ない型染めや捺染などの手法が多く用いられるようになっています。
絵柄や模様の特徴
京友禅に用いられる色は上品でやわらかなものが多く、その色調は「淡青単彩調」と呼ばれています。
柄行には奥ゆかしい古典的なものが多いことが特徴です。
代表的な柄には、公家や宮中文化を表現した有職(ゆうそく)文様や御所解(ごしょどき)模文様、動物や器の文様を描いたものなどがあります。
花びらなどを描く際には内側を濃く、外側を薄くぼかす「内ぼかし」という手法がつかわれます。
仕上げの工程では刺繍や金箔などが施され、たいへん華やかな友禅と言えるでしょう。
【歴史】宮崎友禅斎が考案
(出典:http://kyoto-tabiya.com/blog_higashiyama/初夏の知恩院・友禅苑/)
日本の染色の歴史は奈良時代に始まったとされ、古くからさまざまな染色の文化が根付いていました。
江戸時代中期になり、京都知恩院門前に宮崎友禅斎という扇絵師が暮らし始めます。
遊び心のある友禅斎の扇絵は、当時祇園の町でたいへん人気がありました。
人気のたかまりとともに友禅斎の絵は小袖の染模様としても描かれるようになり、これが友禅染の始まりであると言われています。
糸目糊と呼ばれる糊を置く防染方法も考案され、友禅染の生産はさかんになっていきます。
友禅斎はその後「友禅ひいなかた」「余情ひなかた」などの図案集を出版、全国に友禅模様が広まるきっかけとなりました。
明治時代に入ると化学染料が用いられるようになり、色糊をつくる技術も生みだされ、友禅染はさらに発展していきます。
そして1976年、京友禅は国の伝統的工芸品に指定されました。
【種類別】京友禅の着物画像と価格値段相場
これから着物の種類別に京友禅の価格値段相場をお伝えしていきます。
作家物になると値段が跳ね上がるので、あくまでも参考程度とお考えください。
振袖
京友禅の振袖の価格値段相場は、新品のもので15〜20万円ほど、中古のもので5〜10万円ほどです。
訪問着
京友禅の訪問着の価格値段相場は、新品のもので15〜30万円ほど、中古のもので10万円前後です。
付け下げ
京友禅の付け下げの価格値段相場は、新品のもので10〜15万円ほど、中古のもので5万円前後です。
小紋
京友禅の小紋の価格値段相場は、新品のもので10〜20万円ほど、中古のもので2〜3万円ほどです。
黒留袖
京友禅の黒留袖の価格値段相場は、新品のもので10〜30万円ほど、中古のもので5〜10万円ほどです。
色留袖
京友禅の色留袖の価格値段相場は、新品のもので10〜20万円ほど、中古のもので3〜10万円ほどです。
浴衣
京友禅の振袖の価格値段相場は、新品のもので1〜3万円ほど、中古のものはほとんど取り扱われていません。
京友禅の人間国宝作家や伝統工芸士
次に、京友禅の人間国宝作家や有名な伝統工芸士について見ていきましょう。
松井青々
松井青々(まついせいせい)は、京友禅を代表する作家の一人です。
「松の井の水とともに、松の緑がいつまでも青々と生き生きしているように、作風もそうである事を願った」のが、青々の名の由来です。
1904年京都に生まれた初代松井青々は、日本画と友禅の技法を学び染織総合デザイナーとして独立、通商産業大臣賞・京都府知事賞など数々の賞を受賞。
その長男として父の元で友禅の技法を学んだ二代目も多くの賞を受賞、現在ご活躍されている1967年生まれの三代目にあとを託されました。
タタキ染の地色と金彩を施した松竹梅や菊などの柄が特徴で、たいへん豪華な京友禅です。
田畑喜八
田畑家は文政年間の創業以来、約200年の歴史をもつ手描き京友禅の名家です。
小房屋喜八を初代とし、明治になって田畑姓を名乗るようになりました。
初代から御所や二条城の女性たちの誂染師として活躍、三代目は染織家としては初の人間国宝に認定されました。
田畑家では友禅に独特の深みを出すため、染色に炭火を使うという手法を守り続けています。
現在活躍されている五代目田畑喜八氏は茶屋辻模様を得意とし、現在もご自身の夢である百人一首をテーマとした友禅の完成に向けて、精進を続けておられます。
藤井寛
1935年下絵師藤井桃陰の長男として生まれた藤井寛氏。
父のもとで学び、古典を主体とした独自の作風をつくり出しました。
そのやわらかで豊富な色づかいは「ロイヤルカラー」と呼ばれ、多くの人に支持されています。
皇室の方々へ作品を献上していらっしゃることでも知られ、上皇后美智子様を初め、皇后雅子様・秋篠宮妃紀子様も藤井氏の作品をお召しになっておられます。
また京都市上京区の法輪寺本堂には、藤井氏の手による手描き友禅の天井画が奉納されています。
28枚の天井画には四季の花や木、野菜などの図柄が細やかに表現され、人々の目を楽しませています。
京友禅作家の作品には証紙や落款がつき、一覧で検索可能
(出典:https://www.fashion-kyoto.or.jp/kyoyuzen/)
京友禅協同組合連合会加盟組合の組合員によって京都地区内で主に制作された作品には、京友禅振興協議会発行の証紙がつけられています。
また京友禅では分業制がとられるため、作家ものはそれほど多くないとされていますが、認定された京友禅作家の作品には落款が押されています。
伝統工芸士に認定されている京友禅作家についてはホームページでの検索が可能で、手描部門・型染部門・仕上部門などそれぞれの作家の氏名・得意とする技法・主な製品が見やすく表示されています。
京友禅の技法
京友禅には「手描き染」「型染め」「機械捺染」「デジタル染」の四つの技法があります。
ここでは、その中でも有名な「手描き友禅」「型染め友禅」について見ていきましょう。
手描き友禅
(出典:https://matunomidori.work/513.html)
300年以上の歴史をもつ「手描き友禅」は、型紙などは使わず筆や刷毛を用い、丁寧な手しごとで仕上げられます。
完成までには20以上の工程があり、複雑なものになると一年もの歳月かけて制作されます。
それぞれの工程をたかい技術をもつ専門の業者や職人が担当する完全分業制がとられています。
型染め友禅
(出典:http://www.chiso.co.jp/blog/kimono_learn/千總の型友禅/)
型に切り抜いた型紙を使って染める技法が「型染め」です。
使う色の数だけ型紙が必要とされ、一枚の着物を仕上げるためには数十枚から数百枚の型紙が用いられます。
摺りや霧吹き染めなどの技法があり、同じ色の濃さに染める技術にも熟練を要します。
京友禅の作り方や製造工程
(出典:http://www.chiso.co.jp/blog/kimono_learn/千總の型友禅/)
京友禅の制作は、完全分業制で行われることがほとんどです。
下絵の作成、糸目糊を置く作業、色を挿し、糊伏せをし…と20程の工程があり、それぞれを専門の業者や職人が担当します。
ここでは、いくつかの工程をご紹介しましょう。
下絵作成
まず題材とされるもののスケッチを重ね、小下絵と呼ばれる図案がつくられます。
小下絵を着物と同じ寸法の草稿へ写しとり、模様の配置などを決めていきます。
着物の形に仮縫いした仮絵羽(かりえば)を草稿の上に置き、青花液で下絵を描きます。
「青花液」はつゆ草を絞ってつくられる液で、水に触れると消えていく性質をもっています。
初めは薄い青花液を使い、次第に濃くはっきりとした線が描かれていきます。
下絵が仕上がると仮絵羽はほどかれ、糊置きの工程へと進みます。
糊置き
染色の際に色が混ざるのをふせぐため、下絵の線に沿って細く糸目糊を置きます。
この作業は、細い筒の中に入れた糊を絞り出しながら行われます。
糊置きが終わった生地は、一度水に通されます。
青花液は落ち下絵の線は消え、糸目糊のみが残ります。
地染め
糸目糊で囲んだ模様の部分を白く残すため、さらに糊が置かれます。
この作業は伏せ糊と呼ばれています。
次に染料を染み込みやすくするため、またムラなく染めるために、生地全体に豆汁(ごじゅう・生大豆の汁)を引きます。
鹿の毛の刷毛を使い、ムラが出ないように全体に染料を塗り、一気に地色を染めていきます。
地色が濃い場合は2、3度重ねて、理想の色に仕上げていきます。
蒸し
地染めを終えた生地は蒸し箱に入れられ、100℃の蒸気で20〜50分ほど蒸されます。
これは色を定着させるためで、地色が濃い場合は蒸しの作業が繰り返されます。
蒸しが終わると、軟水(地下水)を使って再度生地を洗います。
この工程は水元と呼ばれ、水で洗うことによって伏せ糊が落ち、防染されていた模様部分が白く現れます。
挿し友禅
次に、白く現れた模様部分に色を挿していく「挿し友禅」の工程に入ります。
さまざまな種類の筆や刷毛を使って、淡い色から順に色をつけていきます。
この作業は、生地の下から電熱器をあてて染料を乾かしながら行われ、ぼかし模様などもこのときに染められます。
挿し友禅の工程を終えた生地を再び蒸し、水洗いの工程が繰り返されます。
刺繍
乾かした生地に、金糸・銀糸・絹の色糸を用いた日本刺繍を施していきます。
刺繍の技法には駒使い、菅、相良(さがら)などがあり、京友禅らしい華やかさが添えられる工程です。
また、金・銀・プラチナの箔や粉を用いて生地を豪華に装飾する「箔置き」もここで行われます。
仕上げ
仕上げにゆのし(上げのし)・地直しを経て、注文通りの寸法に縫い上げ、京友禅が完成します。
縫い上げられたものは、上げ絵羽と呼ばれます。
京友禅の老舗「千總(ちそう)」
(出典:http://www.chiso.co.jp)
京都市中京区にある千總(ちそう)は、1555年創業の京友禅着物の老舗です。
創業当時は法衣装束を扱う店でしたが、江戸時代からは染物も取り扱うようになりました。
十二代当主・西村總左衛門は友禅の下絵を日本画家に依頼、友禅染の意匠に新風を吹き込みます。
また「写し友禅」と呼ばれる新しい技法を採用し、緻密で鮮やかな文様の表現にも成功しました。
昭和に入って戦争が始まると着物は贅沢品とされ、友禅染も製造・販売を禁止されてしまいます。
友禅染の技術が失われることを恐れた十三代・西村總左衛門は「西村總染織研究所」を設立し、戦時中も友禅染を守り続けました。
1958年、当時の皇太子ご成婚の際には、美智子妃をはじめ各宮家の調度品の制作も請け負いました。
現在でも千總は、養蚕農家や織元とともに白生地にこだわり、品格ある色彩の京友禅をつくり続けています。
住所 | 〒604-8166 京都市中京区三条通烏丸西入御倉町80番地 |
電話番号 | 075-211-2531 |
公式HP | http://www.chiso.co.jp/ |
マップ |
【三大友禅】京友禅と加賀友禅、東京友禅の違いを比較
次に京友禅以外の三大友禅、加賀友禅と東京友禅について見ていきます。
それぞれの土地で発展を遂げた友禅の魅力やちがいについてお話ししましょう。
加賀友禅の特徴
加賀地方では古くから染物が盛んで、なかでも「梅染め」と呼ばれる染物が有名でした。
1712年に友禅の名の由来となった京都の扇絵師・宮崎友禅斎が加賀を訪れたことにより、加賀に友禅の技法がもたらされます。
加賀友禅では「臙脂・黄土・藍・草・紫」の「加賀五彩」が基本の色とされ、それぞれの友禅作家がこの五色を微妙な感覚で混ぜ合わせ、独自の色を作り出しています。
落ち着いた繊細な柄行が特徴で、写実的な草花の模様を得意としています。
加賀友禅特有の技法には「外ぼかし」と「虫食い」があります。
「外ぼかし」は花びらなどを描く際、外側を濃く、内側にいくほど薄くぼかしていく技法です。
京友禅では、加賀友禅とは逆の「内ぼかし」の技法が使われます。
また「虫食い」は、虫に食われた葉・朽ちた病葉(わくらば)の様子まで緻密に描き出す技法で、写実的な加賀友禅ならではのものと言えるでしょう。
京友禅が公家たちに好まれ育まれた友禅であるのに対して、加賀友禅は武家好みの着物として発展してきました。
そのため金箔や絞り、刺繍といった華やかな技法が用いられることが少ないことも特徴のひとつです。
加賀友禅は、制作工程のほとんどを一人の作家が行う「一貫制」でつくられています。
これも、分業制で制作される京友禅とは対照的な点と言えるでしょう。
加賀友禅の着物の詳しい特徴や歴史、有名作家などについてはこちらの記事で解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【加賀友禅とは?】着物や柄の特徴、歴史、有名作家、値段などを解説!』
東京友禅の特徴
東京友禅はもともと江戸友禅と呼ばれていました。
参勤交代で大名とともに江戸に移り住んだ友禅染の職人たちによって、技術が伝えられました。
江戸の人々の粋好みと贅沢禁止令の影響で、東京友禅の色合いや柄は落ち着いたものになっていきます。
白・藍・茶などの色が多く見られ、千鳥や磯の松、釣り船といった江戸の風景を描いた柄を得意としています。
武家や町人に愛され、育まれた友禅と言えるでしょう。
東京友禅では、加賀友禅と同様に構図から仕上げまで工程のほとんどを一人の作家が行います。
東京友禅の着物の特徴や有名作家などについてはこちらの記事で詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【東京友禅/江戸友禅とは?】特徴や有名作家、値段相場などを解説!』
京友禅と西陣織の違い
京友禅と西陣織は、どちらも京都が誇る美しい生地です。
両者のちがいを一言で言えば「京友禅は染物、西陣織は織物」ということになります。
すでに織り上げられた白地の絹に模様を描いて染め上げるのが京友禅、先に染めた糸を織りの技術で文様に仕上げるのが西陣織です。
どちらも素敵な着物ですが、両者の違いをしっかり理解しておきましょうね。
京友禅の着物の特徴を理解して、美しく着こなしましょう!
京友禅は、三大友禅の中でも上品で華やかな着物と言えます。
他の三大友禅の着物が一人の作者の一貫制で作られるのに対し、京友禅は分業制で作られるのも勉強になりました!