「名古屋友禅ってどんな柄の着物なの?」
「名古屋友禅ってどういった歴史があるのかな…」
「名古屋友禅の体験ができる工房ってどこにある?」
こんにちは。『着物買取女将』のかずよです。
名古屋友禅は名古屋発祥の着物ですが、その特徴をしっかりと理解できている人は多くありません。
私も友禅の着物に興味があるのですが、それぞれの違いがよく分からなくて…
友禅の着物は素敵ですが、それぞれの特徴を理解するのは大変なものですよね。
でも安心して下さい。
今回は名古屋友禅の着物や柄の特徴、歴史、コーディネート法、他の友禅の着物との違いなどを分かりやすくお伝えします!
そもそもの友禅染めの着物の特徴や歴史などについてはこちらの記事で詳しく解説しているので、基礎から知りたい方はこちらの記事からご覧下さい。
>>『友禅染めの着物とは?模様や柄の種類や歴史、有名作家などを紹介!』
この記事の目次
名古屋友禅とはどんな着物?
名古屋友禅はその名のとおり、主に愛知県名古屋市一帯(名古屋市、春日井市、西尾市、北名古屋市)でつくられている染めの着物です。
300年以上の歴史をもち、国の伝統工芸品にも指定されています。
特徴
名古屋友禅の特徴は、一言で表すとその「渋さ」にあります。
これは名古屋特有の質素倹約を重んじる土地柄を反映したもので、京友禅の華やかさや加賀友禅の細やかさに比べて、たいへん特徴的です。
名古屋友禅には「手描き友禅」のほか、型紙を用いた「型友禅」、家紋を染め抜く「黒紋付染」があり、それぞれが独自の技法で友禅を制作しています。
柄や模様
名古屋友禅は「単色濃淡調」が特徴であるとされています。
これは堅実な名古屋の気風をよく表しており、少ない色数で、それぞれの色の濃淡で柄を描くというものです。
落ち着いた色が用いられ、柄のモチーフは古典を基本としたものが多く見られます。
歴史
1600年代初め、尾張藩の家臣・小坂井新左衛門が紺屋頭として藩内の呉服や旗などを製造、名古屋地方の染物の歴史が始まりました。
1700年代に入り徳川宗治が尾張の地を治めていたころ、名古屋市を中心とした尾張文化が花開き、京都や江戸からもたくさんの職人がやってきました。
友禅染の技法も、この時期に友禅師によって名古屋へ伝えられたとされています。
もともと尾張・美濃は上質の絹織物の産地であり、友禅染は名古屋の地に定着していきます。
その後、徳川宗春の失脚に伴って華やな尾張文化は終わりを迎え、代わって質素倹約の風潮が重んじられるようになっていきました。
友禅も色数を控えたものへと変わっていきます。
これほど長い歴史にもかかわらず、1983年までは「名古屋友禅」という名称はありませんでした。
名古屋の友禅職人は、名古屋の問屋をとおして京都の問屋へ友禅を納めていました。
そのため、名古屋でつくられた友禅は「京友禅」として全国に流通している状況でした。
1983年になって「名古屋友禅黒紋付協同組合連合会」設立。
同年「名古屋友禅」「名古屋黒紋付染」が国の伝統工芸品の指定を受け、ようやく「名古屋友禅」という名での流通が始まりました。
名古屋友禅の価格
名古屋友禅の価格相場は、生地や反物の状態によって大きく変わります。
一例ですが、新品の作家物の訪問着で20万円前後、中古の作家物の訪問着で10万円前後が価格相場です。
2つほど価格例を記載しておきますので、参考になれば幸いです。
【新品の名古屋友禅の訪問着】
価格:200,000円
サイズ:身長165cmの方までお仕立て可能
販売サイト:https://item.rakuten.co.jp/kyomizuki/a294/
【中古の名古屋友禅の訪問着】
価格:98,000円
サイズ:
- 身丈:170cm
- 袖丈:51cm
- 裄:68cm
販売サイト:https://item.rakuten.co.jp/k-komachi/70616139/
体験や教室のある名古屋友禅の工房
名古屋友禅では多くの工程のほとんどを一人の作家が行っています。
見学や体験ができる工房もあり、着物好きの方にはおすすめですよ。
赤塚染工場
(出典:https://akatsukasenkojo.com/)
まず創業75年の赤塚染工場をご紹介しましょう。
赤塚染工場では、型友禅の技法を用いて名古屋友禅がつくられています。
代表の赤塚順一さんは京都で友禅を学び、2002年、伝統工芸士に認定されています。
工場では見学や体験が可能で、型友禅と手描き友禅の体験も受け入れておられます。
型友禅体験は20名、手描き友禅体験は40名までの受け入れが可能で、体験料金は1300円〜3000円です。
堀部工房
(出典:https://www.horibekoubou.com/)
次に堀部工房をご紹介します。
堀部工房は、友禅工房 堀部として1949年に開業。
二代目の堀部満久さんは独自の染色技法「樹光染(じゅこうぞめ)」で特許を取得、1994年伝統工芸士に認定されました。
現在は三代目の堀部晴久さんとともに活躍されています。
1991年からは一般の人の希望に応えて友禅教室を開催、各地でワークショップを開くなど「知っていることはなんでも教えます」「いつでも皆さんをお待ちしています」というお気もちで、友禅染の素晴らしさを伝えていらっしゃいます。
教室見学や工房見学も随時受け入れておられますよ。
名古屋友禅の伝統工芸士
名古屋友禅は1983年に国の伝統的工芸品の指定を受けました。
手描き友禅の「名古屋友禅工芸協同組合」と黒紋付染の「愛知県染加工業協同組合」とで「名古屋友禅黒紋付協同組合連合会」が設立され、現在9名の伝統工芸士が会員として登録されています。
名古屋友禅の3つの作り方
名古屋友禅は手描き友禅・型友禅・黒紋付染の3種類に分かれます。
ここでは、それぞれ独自の技法を持つ3種の名古屋友禅について見ていきましょう。
手描き友禅
(出典:http://h-t-n.jp/specials/shokuninten/articles.cgi?id=26)
手描き友禅は「本友禅」「糸目友禅」と呼ばれ、友禅の始まりから続く伝統ある技法です。
名古屋の手描き友禅は1700年初めの享保年間、第七代尾張藩主徳川宗春がこの地を治めていたころに往来していた友禅師によって伝えられました。
当初は華やかな絵柄でしたが、のちに質素倹約の気風が強まり単色濃淡調の渋い色合いのものになっていき、今日に至ります。
図案・意匠の考案から染め上げまでの工程を友禅作家が一人で行うのが特徴です。
手描き友禅ではまず、青花液(あおばなえき)と呼ばれる露草の花の汁で下絵を描きます。
この青花液は水で洗うと落ちる性質をもっており、近年では化学染料の青花を使うものも増えています。
化学染料の場合は、蒸して色を落とします。
次に色同士が混ざり合うのを防ぐため、生地の裏側から真糊(糸目糊)を置き、淡い色から順に色を挿していきます。
地色を染める前に色挿しをした模様部分に伏糊をし、引染めで地色を染める工程に入ります。
彩色仕上げ(彩色仕上げ)と呼ばれる最終工程で金箔や金粉が置かれ、手描き名古屋友禅ができあがります。
型友禅
(出典:https://akatsukasenkojo.com/mp/about)
型友禅は、友禅模様を彫った伊勢型紙を用いる技法です。
使う色ごとに型紙を変えるため、色数の多いものでは100枚以上の型紙が用いられます。
とくに振袖はさらに多くの型紙が必要で、1000枚以上の型紙が用いられる場合もあるほどです。
生地の上に型紙を置き、その上からヘラを使って色糊を塗りつけます。
型紙を移動しながら型紙がずれないように、さらに継ぎ目が分からないように気をつけながら染めていきます。
型で模様をつけたのち、手描き友禅同様に地染を行います。
名古屋の型友禅は、もともとは紺屋で染められていた旗や幟などを基本にしていると言われています。
明治に入って新しい技術が導入されると、さらに生産は拡大しました。
黒紋付染
(出典:https://www.pref.aichi.jp/sangyoshinko/densan/205.html)
名古屋黒紋付染は家紋を染め抜く技法で、現在では主に礼服に用いられています。
平安時代に発生したと言われる紋章はもともとは牛車や衣服に付けられ、のちに武家の印になりました。
名古屋黒紋付染は、17世紀始めに紺屋頭・小坂井新左衛門が藩内の呉服や旗などに紋を取り入れたことが始まりとされています。
その後、黒紋付染師文助によって紋型紙板締めの技法(紋を白く染め残す技法)が生み出され現在に至ります。
生地の裏表に家紋の輪郭をかたどった型紙を貼り、金網をあてて黒で染め上げます。
黒染めののち、白く残した部分に職人が手描きで紋章を描いていきます。
名古屋黒紋付染の特徴は丈夫さ、そして黒の美しさとされています。
名古屋友禅以外の友禅の着物
友禅師の往来によって、友禅染は各地に伝えられました。
ここでは、名古屋友禅以外の各地の友禅について見ていきましょう。
加賀友禅(金沢)
加賀を代表する染物「梅染め」に友禅の技法を取り入れて生まれたのが、加賀友禅です。
染め色は「臙脂・黄土・藍・草・紫」の「加賀五彩」と呼ばれる色を基本としています。
この五色を微妙な感覚で混ぜ合わせ、それぞれの友禅作家が色を作り出していきます。
柄は繊細な手描きの線で表現され、写実的な草花の模様が有名です。
技法としては「外ぼかし」と「虫食い」が特徴とされています。
「外ぼかし」は、花などを描くときに外側を濃く、内側にいくほど薄くぼかしていくというものです。
また「虫食い」は虫に食われた葉・朽ちた病葉(わくらば)の様子まで描き出すというもので、自然に忠実、かつ写実的な加賀友禅ならではの技法と言えるでしょう。
武家好みの着物として発展してきたため、金箔や絞り、刺繍といった技法が用いられることは少なく、染めの技法のみで仕上げられたものが多いのも特徴です。
加賀友禅は工程のほとんどを一人の作家が行う「一貫制」でつくられ、作家それぞれの個性が強く出る染物と言われています。
加賀染振興協会に登録し、加賀友禅作家と認められた作家が制作したものには必ず落款が入っています。
加賀友禅の着物や柄の特徴、値段相場などはこちらの記事で詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【加賀友禅とは?】着物や柄の特徴、歴史、有名作家、値段などを解説!』
京友禅(京都)
そもそも友禅染は、祇園の町で人気のあった扇絵師・宮崎友禅斎の扇絵を着物に取り入れたことから生産が始まりました。
京都の友禅は「淡青単彩調」と呼ばれ、やわらかな色合いが特徴です。
それぞれの色がやわらかいため、多くの色が用いられても上品さが損なわれません。
柄も奥ゆかしく、公家や宮中文化に関連した有職(ゆうそく)文様や御所解(ごしょどき)模文様、琳派模様といった古典的なものが多く見られます。
仕上げには刺繍や金箔などの装飾が施され、華やかな友禅と言われています。
京友禅の工程は15以上に分かれ、それぞれを専門の職人が担当する分業制がとられています。
そのため、京友禅の着物に落款がつくことはほとんどありません。
京友禅の着物や柄の特徴、値段相場などはこちらの記事で詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【京友禅とは?】着物の特徴や値段相場、有名作家や落款などを解説!』
東京友禅/江戸友禅
東京友禅(江戸友禅)は江戸時代、大名の参勤交代とともに江戸の町に移り住んだ友禅職人によって技術が伝えられ生産が始まりました。
江戸の人々の粋好みと贅沢禁止令の影響で、東京友禅は落ち着いた色合いや柄が特徴とされています。
白・藍・茶などの色に、千鳥や磯の松、釣り船といった江戸の風景を描いた柄が多く見られます。
東京友禅では構図から仕上げまで工程のほとんどを一人の作者が行うため、落款のついた作品が多いのも特徴です。
東京友禅(江戸友禅)の特徴や有名作家などはこちらの記事で詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【東京友禅/江戸友禅とは?】特徴や有名作家、値段相場などを解説!』
十日町友禅(新潟)
新潟県の十日町地方は、もともとは縮や絣などの産地としてたいへん有名でした。
十日町地方における友禅の歴史はまだ浅く、生産が始まったのは昭和30年代からです。
華やかなものから落ち着いたものまで幅広く製造され、有名ブランドとして青柳・秀美(しゅうび)・吉澤(よしざわ)などが挙げられます。
十日町友禅では主に職人たちが工房に集い、一貫生産するシステムがとられています。
十日町友禅の着物の特徴や値段相場などはこちらの記事で詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【十日町友禅とは?】着物の特徴や作家の落款、値段相場などを解説!』
名古屋友禅の着物の特徴を理解して、美しく着こなしましょう!
名古屋友禅は落ち着いた色合いが特徴の着物です。
名古屋の質素倹約を重んじる歴史が反映されていることも勉強になりました!