「塩沢紬ってどんな着物なんだろう?」
「塩沢紬ってどうコーディネートしたら良いのかな?」
「本塩沢と塩沢紬の違いって何?」
こんにちは。『着物買取女将』のかずよです。
日本三大紬のひとつである塩沢紬ですが、しっかりと特徴を理解できている方は少なくありません。
私も塩沢紬に興味があるのですが、もう少し詳しく知りたくて…
着物は着こなすのにマナーやしきたりが多いので、ある程度の知識をつけないと間違った着方になってしまう可能性があります。
でも安心して下さい。
今回は塩沢紬の特徴や柄を始め、格や着ていけるTPO、コーディネートなど塩沢紬について分かりやすくお伝えしていきますね。
この記事の目次
塩沢紬とはどんな着物?
では、塩沢紬についてくわしく見ていきましょう。
特徴
新潟県魚沼市の塩沢地方で織られる塩沢紬は、結城紬・大島紬と並んで日本三大紬のひとつとされています。
落ち着いた控えめな風合いで、結城紬や大島紬と比べると、その渋さが塩沢紬の特徴と言えるでしょう。
経糸には生糸もしくは玉糸を、緯糸には真綿の手紡糸を用いて織られています。
紬特有のざっくりとした手ざわりと表面のシボが味わい深く、このシボのおかげで生地が止まり着崩れせず、からだによくなじむ着物としても知られています。
柄や模様は十字絣や亀甲絣など
たいへん細かい絣模様が塩沢紬の魅力です。
絣模様には経緯の糸で一面に細かく「十」の字を織り出した十字絣(じゅうじがすり)・亀の甲羅の六角形を織り出した亀甲絣(きっこうがすり)・十字絣をさらに細かくした蚊絣(かがすり)などがあります。
どれも落ち着いた色あわせで織り上げられているのが、塩沢紬の特徴と言えるでしょう。
歴史
塩沢地方における織物の歴史はたいへん古く、奈良の東大寺正倉院には奈良時代に塩沢で織られた麻布が収められています。
この麻布は現代では越後上布と呼ばれており、江戸時代中期に越後上布の技術を用いて誕生した絹織物が塩沢紬です。
雪深い地方で長い冬のあいだにこつこつと手仕事で仕上げられてきた塩沢紬ですが、近年では後継者も少なく生産量が減り「幻の紬」とまで呼ばれるようになりました。
(参考記事:【越後上布とはどんな着物?】特徴や価格、雪さらしなどについて解説!)
伝統工芸品に指定されると証紙がつく
塩沢紬は昭和50年に国の伝統的工芸品に指定されました。
伝統工芸品の指定を受けるためには以下のような厳しい条件があります。
- 先染の糸で平織で織られていること
- 縦糸に生糸・玉糸を用い、緯糸には真綿の手紡糸を用いること
- 緯糸の打込みに手投杼(てなげひ)と呼ばれる道具を使うこと
- 絣糸は「手括り」「手摺り込み」又は「板締め」で染められていること
このような厳しい条件を満たした生地にのみ、証紙をつけることが許されます。
証紙はその生地の由来を証明する、重要な印です。
伝統工芸品として認められた生地には、赤い丸に「伝」のロゴが組み合わされた証紙がつけられています。
格
紬の着物は絹織物ではありますが、くず繭(上等な織物には使えないいびつな形の繭)を使って織られています。
そのため着物の格はカジュアルなものとされ、礼装として着用することはできません。
正式なお席やお茶会などにはお召しになれませんので、注意が必要です。
普段着としてお召しになるか、少し上等な帯と合わせてカジュアルな集まりにお出かけになるとよいでしょう。
塩沢紬にはどんな帯が合う?
塩沢紬には半幅の帯や名古屋帯がよく合います。
金銀糸が多く使われた豪華な帯よりも、控えめな塩瀬の帯や縮緬の帯などの方が、塩沢紬の渋さをぐっと引き立ててくれると言えるでしょう。
塩沢紬のコーディネート画像4選
白い塩沢紬×ウールの帯の動きやすいコーディネート画像
塩沢紬はざっくりとした風合いで動きやすいみたいですね。
花柄が可愛い白い塩沢紬×名古屋帯のコーディネート画像
華やかな柄の塩沢紬なので、若い方でも楽しめるコーディネートですね。
青の塩沢紬×袋帯の落ち着いたコーディネート画像
控えめな塩沢紬でおしとやかなコーディネートですね。
白い亀甲絣の塩沢紬コーディネート画像
白い生地に全身亀甲絣があしらわれていて、上品なコーディネートですね。
塩沢紬と大島紬、結城紬の違い
大島紬は漆黒の泥染が特徴とされ、たいへん豪華な織物です。
一見して分かるほどに贅沢な紬で、その点が控えめな塩沢紬との明らかな違いと言えるでしょう。
大島紬についてはこちらの記事で詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【着物買取】大島紬の価格相場は高い?損をしない売り方を解説!』
一方、結城紬は大島紬にくらべるとぐっと落ち着いた風情で、塩沢紬により近い織物です。
結城紬と塩沢紬の違いは表面の風合いにあります。
塩沢紬の表面には細かいシボが浮いているのに対して、結城紬の表面はつやつやとしてなめらかです。
結城紬についてはこちらの記事で詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【結城紬とは?】着物の特徴や柄、証紙の見分け方、値段価格相場を紹介!』
塩沢紬以外の塩沢織の着物
塩沢地方には、塩沢紬のほかにもいくつかの織物があります。
それぞれに味わい深い北国の織物をご紹介しましょう。
越後上布
越後上布は塩沢紬の基になったとされるたいへん古い麻織物で、さらさらとした生地は夏の着物として人気があります。
奈良の東大寺正倉院に収められていることから、約1200年前にはすでに織られていたとされています。
昭和30年に国の重要無形文化財に指定され、さらに平成21年にはユネスコ無形文化遺産に登録されました。
原料は苧麻(ちょま)という植物の茎の皮を糸状に加工したもので、驚くほど繊細な技法が用いられています。
江戸時代には20万〜30万の反物が生産されていたと言われていますが、現在は生産量が減少してしまい「幻の織物」と呼ばれるようになりました。
越後上布の詳しい特徴や価格、コーディネート法などはこちらの記事で解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【越後上布とはどんな着物?】特徴や価格、雪さらしなどについて解説!』
夏塩沢
夏塩沢は、その名前のとおり夏のための織物です。
シャリシャリとした肌ざわりで、透けた様子が涼しげです。
夏の生地である紗の一種とされます。
塩沢地方の織物のなかでは比較的新しい織物で、明治時代に誕生しました。
お召しになる際には、透けてもかまわない洒落た長襦袢をお使いになるとよいでしょう。
仕立てのときに居敷当てを当てておけば、透けることを気にせずにお召しになれますよ。
本塩沢
本塩沢は、以前は「塩沢お召し」と呼ばれていました。
越後上布の縮の技法を絹に生かして、江戸時代から織られ始めたとされています。
昭和51年には伝統的工芸品の指定を受けています。
強く撚りがかけられた糸(強撚糸)を緯糸に用い、織りあがった生地はお湯の中でもみ洗いされます。
湯もみによって糸の撚りが戻り、独特なシボがあらわれるのです。
このシボのおかげでサラサラとした肌ざわりが得られ、優雅な夏の装いとされています。
塩沢紬と本塩沢の違い
塩沢で織られる生地の中で、とくにまちがえられやすいのが本塩沢と塩沢紬です。
どちらも「塩沢」呼ばれることあるため、なおさら混同しやすいのですが、実はこのふたつはまったく別のものなのです。
まず分類がちがいますし、そのため着物としての格もちがうのです。
本塩沢はお召し、塩沢紬は紬です。
お召しと紬のちがいは、用いられている糸にあります。
お召しを織るために用いられる糸は、お召し糸と呼ばれる繭から取られた上等の生糸です。
一方、紬に用いられる糸は紬糸と呼ばれる真綿から紡いだ糸です。
生糸にすることができなかったいびつな繭を綿にして取られる紬糸は、なめらかな生糸にくらべると節があり太さも均一ではありません。
織り上がりの風合いも大きく異なり、お召し糸を使った本塩沢はさらさらとした生地に、紬糸をつかった塩沢紬はざっくりとした素朴な生地に仕上がります。
塩沢紬はこの紬糸を緯糸に、生糸・もしくは玉糸を経糸に用いて織られています。
次に、着物の格のちがいについてお話ししましょう。
お召しは織りの着物のなかではいちばん格がたかいとされますので、本塩沢は帯あわせによってはかなりきちんとしたお席にまで着ていくことができます。
けれども紬はあくまでもカジュアルなおしゃれ着とされますので、塩沢紬は普段着としてお召しになるのがよいでしょう。
塩沢紬の作り方・織り方
塩沢紬の工程は、今もすべてが手作業です。
雪深い北国の人たちの根気と、ていねいなしごとによって生み出されるのが塩沢紬なのです。
ここではそれぞれの工程について、くわしく見ていきましょう。
図案の作成
まずデザインを決めます。
絣の位置を細かく方眼紙に記入していきます。
織り上げる時にもこの図案が設計図となるため、たいへん重要な作業です。
糸作り
塩沢紬には、生糸のほかに真綿の手紡ぎ糸・玉糸が使われます。
真綿からていねいに糸を引き出し、糸の太さを手の加減で調整しながら巻き取ります。
また玉糸は二匹以上の蚕が一緒に作った玉繭から紡がれた糸のことで、途中で絡まっている場合が多く、やはりこれも手作業でていねいに紡ぎます。
墨づけ
ここから、塩沢紬の特徴である細かな絣模様を生み出す工程に入ります。
塩沢紬は織り上がりの絣模様に合わせて、あらかじめ染められた糸で織られています。
糸を染める前には、まず墨つけと呼ばれる印つけが行われます。
張り台に緯糸を張り、絣定規を用いて墨で絣模様の場所に印をつけていきます。
印をつけた部分は綿の糸で固く括られ、染めの工程にまわされます。
しっかりと括られた部分には染料が入らず、織り上がりには正確な絣模様となるのです。
色の刷り込み
次に染料を刷り込みます。
刷り込みには竹ヘラが用いられ、墨つけの印に合わせて染料が刷り込まれます。
その後、100℃の蒸気で蒸すことで色を定着させ、よく乾かします。
織り作業
すべての糸の準備ができたら、いよいよ高機(たかはた)と呼ばれる織り機の準備を始めます。
まずは経糸の準備です。
図案に合わせて、絣模様がずれないように地糸を巻き取ります。
その後、この経糸を織り機の綜絖目(そうこうめ)に1本ずつ通し、さらに筬(おさ)に2本ずつ通していきます。
塩沢紬の経糸は標準的なもので約1,260本と言われますから、経糸の準備だけでもどれほど根気のいる作業かがお分かりになるでしょう。
こうして張られた経糸の間に杼(ひ)という舟形の道具に巻いた緯糸を左右にくぐらせることで、生地が織りあがっていきます。
細かな絣模様がずれないように経糸と緯糸を合わせながら、根気よくていねいに。
こうして塩沢紬は織られるのです。
仕上げ
織り上がった生地の汚れや糊を洗い落とし、ていねいに巾を整えます。
仕上げの検査で汚れや織りむらを確認され、ようやく塩沢紬が一反仕上がります。
塩沢紬が汚れた場合のケア
大切な塩沢紬が汚れてしまったら、どのように対処すればよいのでしょうか。
まず気をつけなければならないのは、塩沢紬がたいへん縮みやすい織物だという点です。
その縮みやすさは、巾が3分の2になってしまった例もあるほどです。
そのため塩沢紬が汚れてしまった場合には、水分を使わずに対処することが重要です。
飲み物をこぼしてしまったときには、まずは乾いた布でそっと押さえましょう。
決してごしごしこすって汚れを落とそうとせず、汚れが広がるのを防ぐという気もちで押さえます。
それ以上ご自分で対処しようとなさると生地を傷めてしまうことになりかねませんので、すぐに着物の汚れ落としの専門家に相談なさったほうがよいでしょう。
さらに手に負えないソースやしょうゆ、墨汁などの汚れがついてしまったときには、ご自分ではさわらず、すぐに専門家に相談しましょう。
いずれの場合も、汚れの原因をきちんと伝えることが大切ですよ。
塩沢紬のお手入れ方法
塩沢紬のお手入れも、基本はほかの着物と同じです。
着物の大敵はまずは湿気です。
そのため、お召しになったあとには乾かすことが重要です。
着物を脱いだらすぐに大きめのハンガーにかけて、風を通します。
帯や襦袢、小物なども一緒に一晩乾かすことを習慣になさるとよいでしょう。
きちんと乾いたら、清潔な布で埃を払います。
このときもこすらないように気をつけて、軽く埃を落とします。
その後、シミや汚れがないかどうか着物全体をよく確認します。
汚れがつきやすい袖口や胸元、腰回りなどはとくに丁寧に確認が必要です。
汚れていた場合には慌ててこすったりせずに、すぐに専門家に相談なさることをおすすめします。
塩沢紬の保管・収納方法
紬に用いられている糊は、カビの原因になりやすいものです。
そのため、紬の保管にはとくに注意が必要です。
長くお召しにならないときにも定期的に虫干しをして、カビや汚れがないか丁寧に確認をしましょう。
着物の保管には、桐などの木製の箪笥が最適です。
下段にいくほど湿気がたまりやすいので、大切な着物・上等な着物ほど上段に保管なさるとよいでしょう。
汚れが分かりやすい白の木綿布を敷き、重ねすぎないように気をつけて収納します。
虫干しの際にはたとう紙もよく確認し、必要であれば新しいものと取り替えるようにします。
着物を保管する際にプラスチック製の収納ケースをお使いになる方もいらっしゃるかもしれませんが、プラスチック製の収納ケースは風通しが悪いため湿気がこもりやすく、カビが生えやすい環境をつくってしまいます。
プラスチック製のケースをお使いになる場合には、まめに風をとおすことを心がけましょう。
除湿剤や除湿シートをお使いになるのもよいでしょう。
同様に段ボールも湿気を含みやすい素材でカビが生えやすく、着物の保管にはあまりおすすめできないですね。
塩沢紬の特徴を理解して、美しくコーディネートしましょう!
塩沢紬は絣模様のキレイな、落ち着いた雰囲気の着物です。
帯の合わせ方によって、上品な印象からカジュアルな印象まで変わることも分かりました!
それは良かったわ。
着物を正しく着こなすためには、着ていく場にふさわしい格の着物や帯合わせを知ることが重要です。
こちらの記事では他の着物の格やTPOに合わせた着物選びを一覧でまとめているので、興味のある方はぜひご覧下さい。