「牛首紬ってどんな着物なの?」
「牛首紬の値段や価格っていくらくらい?」
「牛首紬にはどんな帯が合うのかな…」
こんにちは。『着物買取女将』のかずよです。
牛首紬は日本三大紬に数えられる有名な着物ですが、正しく着こなせる人はそう多くありません。
私も牛首紬に興味があるのですが、どんな帯と合わせたらいいか迷ってて…
着物の着こなしはTPOに合わせた格を意識しなければいけないから大変ですよね。
でも安心して下さい。
今回は、牛首紬の着物の特徴や帯合わせなどのコーディネート法、値段相場などを分かりやすく解説していきます!
そもそもの紬の着物の特徴や種類などについてはこちらの記事で詳しく解説しているので、基礎から知りたい方はこちらの記事からご覧下さい。
>>『紬とはどんな着物?知っておきたい帯やコーディネート作法を徹底解説』
この記事の目次
牛首紬とはどんな着物?特徴を解説
牛首紬は、石川県の霊峰・白山の麓の白峰地区で織られる絹織物です。
白山地区の旧地名・牛首がその名の由来とされています。
結城紬・大島紬と並んで日本三大紬のひとつとされ、1988年には国の伝統工芸品に指定されています。
牛首紬は石川県白山市で生まれた魅力あふれる着物
牛首紬の魅力は通気性や肌触りのよさ、そして美しい光沢です。
さらにたいへん丈夫なことでも有名で、牛首紬の生地を釘に引っ掛けてしまうと、生地は破れず釘の方が引き抜かれてしまうと言われています。
このため、牛首紬には「釘抜紬」の別名があるほどです。
また経糸には普通の絹糸が用いられますが、緯糸には玉糸が使われることも大きな特徴です。
通常、蚕は一匹がひとつの繭をつくるものですが、まれに二匹の蚕がひとつの繭をつくることがあります。
この繭が玉繭と呼ばれ、繭全体の2〜3パーセントの割合で自然発生するとされています。
玉繭からは二本の糸が出ているため、直接糸を引き出す作業はたいへん難しいものです。
そのため「くず繭」と呼ばれ、いったん真綿にしてから糸を引き出すのが一般的です。
しかし、白峰地方の人々はこの玉繭から直接糸を紡ぎ出す「のべびき」とよばれる伝統技法をもっていました。
玉繭から直接紡ぎ出された玉糸は二本が絡み合い、たいへん丈夫です。
糸のところどころにできてしまう節も、織り上がった牛首紬に独特の味わいを添えています。
模様は絣や縞柄が特徴
牛首紬のもっとも代表的な柄は「カツオ縞」と呼ばれる伝統柄でしょう。
とくに藍染のカツオ縞は有名です。
カツオ縞とは、鰹の背から腹にかけての色のように、だんだんと薄くなっていくグラデーションをつけた縞模様のことを言います。
牛首紬ではさまざまな縞模様のほかに、絣模様なども見られます。
全ての工程を一貫作業で行う精緻な作り方
(出典:https://www.katoteoriushikubi.com/work)
牛首紬の製作の工程は繭の選別から機織りまで20工程ほどもあるとされ、ほとんどが手作業です。
またすべての工程はひとつの事業所で一貫して行われ、これは国内の伝統的な織物の産地のなかでも、たいへんめずらしい例とされています。
牛首紬の歴史
牛首紬の歴史は、平安時代末期にまでさかのぼるとされています。
1159年の平治の乱に敗れた源氏の大畠氏が牛首村へ落ちのび、その妻たちによって機織りの技が伝えられました。
江戸時代には白峰地方は幕府直轄の天領とされ、牛首村の織物は全国にひろまっていきました。
京都の俳人・松江重頼がこのころ著した「毛吹草」という書物のなかにも、牛首布という記述が見られます。
また牛首では、古くから養蚕が行われていました。
積雪が3〜4メートルにもなる雪深いこの地方では耕地が少なく、養蚕は貴重な現金収入の源でした。
生糸になる上等な繭は売られ、残ったくず繭を用いて牛首紬は織られ始めたのです。
明治に入っても、牛首紬の生産は拡大していきます。
しかし昭和になると和服の需要は減少、戦争の影響も受け紬の生産は激減します。
この時期には、一部の職人が伝統的な技術を保つだけの状態になりました。
戦後、地場産業の復興を目指した西山鉄之助が桑畑の造成・養蚕が開始、紬工場を建設。
こうして牛首紬は再び製造されるようになりました。
石川県の無形文化財や経済産業大臣しての伝統的工芸品に認定
牛首紬は1979年に石川県の無形文化財に、また1988年に国の伝統的工芸品に指定されています。
それぞれの要件は以下のとおりです。
【石川県文化財 指定の要件】
- 緯糸はすべて玉繭から直接引き出した玉糸を用いること
- 織りは高機によること
【経済産業大臣指定伝統的工芸品 指定の要件】
- 先練り又は先染めの平織りであること
- 経糸は生糸、緯糸には「座繰り」による玉糸を使用すること
- 緯糸の打ち込みには「手投杼」もしくは「引杼」を用いること
- 生糸または玉糸を使用すること
パリコレのブランドにも採用
牛首紬の工房のひとつ白山工房では、通常は38センチの反物の幅を1m40cmにまで広げドレスに対応するなど世界に向けた取り組みも行われています。
その努力が実り、2011年・2012年のパリコレクションに採用されました。
白山紬と牛首紬の違い
牛首紬と同じルーツをもつ紬に、白山紬があります。
白山紬は機械製糸を用い、力織機で織られています。
牛首紬にも機械織りの製品はありますが、こちらは織りの工程のみが機械で行われます。
白山紬と牛首紬の違いはプロならば見分けられると言われていますが、白山紬も丈夫で光沢のある生地です。
着物に仕立てると裾さばきがよいことでも知られています。
素人にも分かる違いがあるとすれば、牛首紬の方が厚手に感じられ、しっとりとしたやわらかさがあることですね。
牛首紬に合う帯
着物上級者になればなるほど、紬がお好きな方が多いようです。
最近は、お洒落着として紬を上手に着こなしていらっしゃる方も増えています。
着物は、帯合わせ次第でさまざまに表情が変わります。
「着物一枚に帯三本」と言われ、一枚の着物でも帯が三本あれば、まったくちがう着こなしが楽しめるのです。
では、牛首紬にはどんな帯が合うのでしょう。
牛首紬の雰囲気や格から考えると、いちばん合うのはやはり染めの名古屋帯でしょう。
織りの帯をお選びになるのなら、金糸や銀糸の入らない紬に合ったものがよいでしょう。
同じ紬の帯や博多織の帯であれば、さらに気軽な感じで着こなせますよ。
牛首紬は結婚式に着ていっても大丈夫?
結婚式に招かれ着物をお召しになりたいとき、どんなものをお召しになればよいのか迷う方は多いでしょう。
着物の格や柄がその場にふさわしいかどうかを判断するのは、着物初心者には難しいこともあります。
今回お話ししている牛首紬は結婚式にふさわしい着物なのでしょうか。
最近は少し改まったお席にも紬でおいでになる方も多いようですが、基本的に先染めの着物は普段着とされています。
ですから先染めの牛首紬はよほどカジュアルなパーティなどの場合を除いて、結婚式には不向きと言えるでしょう。
では、後染めで訪問着に仕立てた牛首紬はどうでしょう。
後染めで友禅柄などが描かれ訪問着に仕立てられる紬はたいへん珍しいため、実はなかなかはっきりとした答えは出ません。
後染めの牛首紬の訪問着は、結婚式にもお召しになれるという意見もあれば、あくまでも紬なのだから結婚式には不向きとする意見も見られます。
たしかにお友だちとして招かれた場合には、留袖や紋の入った着物をお召しになる必要はなく、無紋の訪問着でご出席いただけます。
ただ出席者のなかに着物に詳しい方がいらして、紬はあくまでも紬というお考えをおもちだったら…?
あなたを招いてくださった花嫁さん(もしくは花婿さん)の株は、きっと上がりませんね。
結婚式の主役は、花嫁さんと花婿さんです。
お招きいただいたあなたは、華を添える気もちで装いをお選びにならなくてはいけません。
紬だけど訪問着…どちらともつかない着物をお召しになっていては、あなた自身も少し心配でしょう。
せっかくのお着物姿ですから、どなたが見ても結婚式にふさわしい装いで、ぜひしゃんとしてお出かけください。
相手のこと、まわりの方のこと、場の雰囲気、すべてを考えてその日のお着物を選ぶ。
それが、おくゆかしい和装の美しさだと思うのです。
牛首紬のコーディネート画像3選
淡い色合いの牛首紬×白色の帯の爽やかコーディネート画像
パステルカラーの牛首紬で、清楚な印象を与えてくれるコーディネートですね。
光沢感のある牛首紬のモノトーンコーディネート画像
光沢感が華やかな素敵なコーディネートですね。
黒色の牛首紬×渋い色の帯の落ち着きあるコーディネート画像
大人っぽい印象ですが、着物の柄による控えめなオシャレも楽しめる素敵なコーディネートですね。
【種類別】牛首紬の着物画像と値段や価格相場
ここでは着物の種類別に牛首紬の値段や価格相場をお伝えします!
限定品やブランドものになると値段が跳ね上がるので、あくまでも参考程度とお考えください。
訪問着
牛首紬の訪問着の値段や価格相場は、新品のもので15〜30万円ほど、中古のもので5〜10万円ほどです。
付け下げ
牛首紬の付け下げの値段や価格相場は、新品のもので10〜20万円ほど、中古のもので5〜10万円ほどです。
小紋
牛首紬の小紋の値段や価格相場は、新品のもので10〜20万円ほど、中古のもので3〜8万円ほどです。
色無地
牛首紬の色無地の値段や価格相場は、新品のもので10〜20万円ほど、中古のもので5〜10万円ほどです。
牛首紬の有名作家や工房、伝統工芸士
現在も牛首紬を生産している工房は、「白山工房」と「加藤機業場」の二ヶ所のみとなっています。
ここでは、それぞれについて見ていきましょう。
白山工房/西山産業株式会社
(出典:https://www.hakusan-koubou.jp/)
白山工房では安易な分業化を選ばず全行程を一貫作業で行うという伝統を守り続け、今も一反一反をていねいに生産しています。
「各作業に携わる人々が全行程の知識を有しながら働くという環境には、真の意味の効率がある」とする理念には、職人としての誇りが感じられます。
白山工房では見学も受け入れています。
牛首紬の製造工程を見ることができ、牛首紬に関する貴重な資料も展示されています。
【見学のご案内】
■入館料
区分 | 個人 | 団体 |
大人 | 400円 | 350円 |
小・中学生 | 250円 | 200円 |
■工房情報
住所 | 〒920-2501 石川県白山市白峰ヌ17 |
営業時間 | 9:00〜16:00 |
定休日 | 木曜日・冬期(12〜3月) |
電話番号 | 076-259-2859 |
公式HP | https://www.hakusan-koubou.jp |
マップ |
加藤機業場/加藤改石(かとうかいせき)さん
(出典:https://www.katoteoriushikubi.com/)
白生地の牛首紬のみを生産し続ける工場が、加藤機業場です。
機械の力を借りず全てを手作業で行っているため、年間の年間生産反数はわずか150反ほどです。
加藤機業場の礎を築いたのは、戦時中も牛首紬の伝統を守り続けた三代目当主・加藤三治郎の一家でした。
三治郎の妻・志ゅんはその功績を称えられ、1978年に黄緩褒章を授与されています。
その息子・加藤改石さんは100歳に近い今も毎日工場に顔を出し、仕事を手伝っておられます。
手機でしっかりと打ち込まれた生地は織りの密度がたかく、丈夫さも増します。
心地よい弾力すら感じさせる牛首紬は、加藤機業場の真摯な手作業の賜物と言えるでしょう。
【工房情報】
住所 | 〒910-0102 福井県福井市川合鷲塚町49-2 |
電話番号 | 077-655-0077 |
公式HP | https://www.katoteoriushikubi.com/ |
マップ |
牛首紬の落款や証紙
(出典:https://ushikubi.co.jp/aboutushikubi/)
石川県牛首紬生産振興協同組合では、牛首紬の品質検査が行われています。
検査に合格したものには、金沢織物検査所と石川県牛首紬生産振興協同組合それぞれの合格印が押され、さらに検査合格之証と保証書が添付されます。
白山工房で制作された紬の保証書には「角」印が、加藤機業場のものには「石」の印が表示されています。
さらに経済産業省の指定要件を満たした牛首紬には、経済産業大臣指定伝統的工芸品証紙が貼られます。
牛首紬の2種類の染め方
(出典:https://www.hakusan-koubou.jp/koutei04.html)
牛首紬の染めには先染めと後染めがあります。
糸の段階で染色し織り上げるものを先染めと呼び、織り上げた白生地に後から染色するものを後染めと呼びます。
ほとんどの場合、紬は先染めです。
紬であるにもかかわらず、加賀や京都などの伝統的な染めを後から施した着物がある点は、牛首紬ならではの特徴と言えるでしょう。
先染め
牛首では古くから、植物による染色が一般の家庭でも行われていたとされています。
現在では退色を防ぐため化学染料が用いられることが多くなりましたが、「藍染」や「くろゆり染め」においては伝統的な染色法が受け継がれています。
藍染は伝統柄「カツオ縞」などの縞模様に織り上げられます。
くろゆり染めはくろゆりの花びら9000枚から色素を抽出して染める技法で、媒染剤によってピンク、紫、黄、緑、グレーなどを発色させることが可能です。
後染め
一時は途絶えたとされた牛首紬の生産が戦後再開された際、紬の販路を広げるために一役買ったのがこの後染めの手法でした。
同じ石川県を代表する染物・加賀友禅を牛首紬に染めつけるという斬新な発想が生まれたのです。
普段着である紬が友禅の柄を得て、格調高い着物になりました。
染色を施された生地に、牛首紬としての表示が残されていることも特徴のひとつです。
牛首紬の生産量はごくわずか
牛首紬の生産量はごく少なく、年間2000反ほどと言われています。
なかでも先染めの牛首紬は全体の1〜2パーセントほどとされ、たいへん貴重なものになっています。
牛首紬と三大紬などの有名な紬の着物との違い
日本の各地では、その土地ごとに特徴のある紬が織られています。
牛首紬と並んで三大紬と呼ばれる大島紬や結城紬など、ここではそれぞれの特徴を見ていきましょう。
大島紬
大島紬は鹿児島県奄美群島で織られる織物です。
泥染めや草木染めで先染めした手紡ぎの絹糸を手織りで織り上げます。
フランスのコブラン織り・トルコのペルシャ絨毯と並んで、世界三大織物のひとつとされることもあるほど有名な織物です。
しゃっきりとした独特の風合いと渋めの色合いが特徴で、模様は縞や絣が有名です。
とくに絣文様の精巧さは世界一とも言われ、1975年に国の伝統工芸品に指定されています。
紬特有の工程の複雑さから、大島紬も量産が難しく希少性のたかい織物とされています。
大島紬の着物の特徴や模様、買取価格や値段相場などはこちらの記事で詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【着物買取】大島紬の価格相場は高い?損をしない売り方を解説!』
結城紬
結城紬は茨城県小山市・栃木県結城市で織られる織物です。
紬の多くは緯糸には紬糸を経糸には普通の絹糸を用いますが、結城紬は緯糸経糸ともに紬糸が用いて織られています。
これが結城紬の大きな特徴です。
素朴な風合いと控えめな色合いで、柄は「亀甲絣」が代表的です。
腰掛けて織る一般的な高機(たかはた)ではなく、地機(じばた)と呼ばれる古い歴史を持つ織り機で織られています。
地機の脚は極端に短く、織り手は足を投げ出して座った状態です。
また踏み板がなく、足の指に綱をかけて綜絖 (そうこう) の上げ下ろしをします。
「糸つむぎ」や「絣くくり」にも固有の技法があり、国の重要無形文化財ばかりでなくユネスコの無形文化遺産にも指定されています。
結城紬の着物や柄の特徴、値段相場などはこちらの記事で詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【結城紬とは?】着物の特徴や柄、証紙の見分け方、値段価格相場を紹介!』
塩沢紬
塩沢紬は新潟県魚沼市の塩沢地方で織られる織物です。
落ち着いた控えめな風合いで、渋さが特徴の紬です。
表面に浮き出したシボが味わい深く、生地止まりのよい着崩れしない着物と言われています。
たいへん細かい絣模様が有名で、十字絣・亀甲絣・十字絣をさらに細かくした蚊絣(かがすり)などがあります。
塩沢紬の着物や模様の特徴やコーディネート法などはこちらの記事で詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『塩沢紬とはどんな着物?特徴や柄、コーディネート画像などを紹介!』
牛首紬の着物の特徴を理解して、美しく着こなしましょう!
牛首紬は、光沢感のある丈夫で通気性の良い着物です。
染めの名古屋帯と合わせると良いことも勉強になりました!
それは良かったわ。
着物のコーディネートは行く場所や居合わせる人、タイミングによって格を意識する必要があります。
それぞれの着物の格やTPOに合わせたおすすめの着物はこちらの記事で解説しているので、合わせて読むことをおすすめします。
また他の紬の着物の特徴や着こなし方などはこちらの記事でまとめているので、合わせて読むことでより深く理解できますよ。