「越後上布ってどんな着物なの?」
「越後上布の価格や値段相場っていくらくらいなのかな…」
「越後上布にはどんな帯が合うの?」
こんにちは。『着物買取女将』のかずよです。
越後上布は高級な着物だからこそ、正しい帯合わせや着こなしを知らないと恥をかいてしまう可能性があります。
私も越後上布に興味があるのですが、いまいち特徴を理解できていなくて…
上布の着物といっても他にもたくさんあるから、違いを区別するのは難しいものですよね。
でも安心して下さい。
今回は越後上布の特徴やコーディネート、他の上布の着物や越後の着物との違いなどを分かりやすくお伝えします!
そもそもの上布の着物の種類や特徴、模様、格、歴史などについて詳しく知りたい方は、まずはこちらの記事からご覧下さい。
>>『上布の着物とは?種類や格、模様の特徴などを分かりやすく解説!』
この記事の目次
越後上布とはどんな着物?特徴を解説
越後上布は新潟県南魚沼市、小千谷市を中心に織られている平織の麻織物です。
もともとは「越後縮」と呼ばれていましたが、現在は平織の生地は越後上布、縮織の生地は小千谷縮と分けて呼ばれるようになっています。
(参考記事:【小千谷縮とはどんな着物?】特徴や浴衣としての着方、洗濯法を解説!)
上布のなかでも最高級品とされ「東の越後、西の宮古」と言われています。
特徴
「上布」は、江戸時代に幕府への上納品とされた上等な麻の生地の総称です。
なかでも越後上布の薄さ・繊細さは「蝉の羽」に例えられるほどで、さらさらとした夏の着物生地として、たかく評価されています。
柄行きでは、絣や縞がもっとも有名です。
原料の苧麻(からむし)とは
越後上布の原料である苧麻(からむし)はイラクサ科の多年生の植物で、昔から植物繊維を採る目的で栽培されてきました。
紵(お)、苧麻(ちょま)、青苧(あおそ)などの名前で呼ばれることもあります。
越後上布は、主に福島県の昭和村で栽培される苧麻を原料として織られています。
もともとは越後でも良質の苧麻が栽培されていましたが、領主上杉家が会津へとお国替えとなり、苧麻の栽培技術も越後から会津へと移っていったのです。
昭和村から届けられた青苧は水に浸され、やわらかくなったところを爪で裂きながら繊維をつなぎ、糸へと加工されます。
この工程を苧績み(おうみ)と呼びます。
一般的には糸を作る工程を「紡ぐ」と言いますが、これは綿状のものから繊維を引き出して糸を作ることです。
一方、越後上布の糸づくりのように、細く裂いた繊維をつなぎながら一定の太さの糸を作ることは「績む(うむ)」と言い、たいへん高度な技術とされています。
口で湿らせた糸を撚りながら均一に繋ぐ作業では、熟練の績み手でも一日に績める量は5~6グラムです。
越後上布一反に使われる糸の量は800グラム以上。
越後上布の糸づくりが、どれほど根気のいる作業かがお分かりになると思います。
国の重要無形文化財やユネスコ無形文化遺産に登録
1955年、越後上布は小千谷縮とともに「越後縮」として国の重要無形文化財に指定されました。
さらに2009年には、ユネスコ無形文化遺産に登録されています。
越後上布の重要無形文化財指定の要件は以下のとおりです。
- すべて苧麻(ちょま)を手積みした糸を使用すること
- 絣模様をつける場合は手括りによること
- 居座機(いざりばた)で織ること
- シボとりをする場合は湯もみ、足ぶみによること
- さらしは雪ざらしによること
重要無形文化財の越後上布は、越後上布・小千谷縮布技術保存協会の会員のみが製作を許されています。
歴史
越後における麻織物の歴史はたいへん古く、奈良東大寺正倉院には1200年以上も前に越後の国から献上された「越布」が収められています。
その後、平安時代中期に編まれた『延喜式』、鎌倉時代の『吾妻鏡』にも「越後布」の記録が見られ、朝廷や将軍家への献上品として用いられていた様子から、越後の麻布の評価のたかさがうかがえます。
江戸時代になると、明石から移住してきた浪人・堀将俊によって越後上布の技術は進歩し、生産高は年間20万から30万反に及ぶまでになりました。
しかし現在では原料である苧麻の生産量が減少し、後継者不足も深刻な問題となっています。
越後上布の種類
「重要無形文化財指定の越後上布」はあまりにも高価で生産数も少ないため、手績み糸と紡績糸の両方で織られた「古代越後上布」がつくられました。
さらに紡績糸のみを使用した「越後上布」もつくられています。
現在流通している越後上布の種類について、おさらいしてみましょう。
【重要無形文化財指定の越後上布】
経糸緯糸ともに苧麻の手績み糸を使用した最高級品です。
【古代越後上布】
経糸には紡績糸を緯糸には苧麻の手績み糸を使用しています。
【越後上布】
経糸緯糸ともに紡績糸を使用しています。
「古代越後上布」や「越後上布」のように、「重要無形文化財指定」ではない越後上布もありますので、お求めになる際には確認が必要です。
越後上布の値段や価格
「重要無形文化財指定の越後上布」と「古代越後上布」「越後上布」それぞれに価格が大きくちがいます。
いったいどれほどのお値段なのでしょう。
着物や反物
「重要無形文化財指定の越後上布」は麻織物の最高峰とされています。
お値段もやはりたいへんなもので、100万円くらいからでしょうか。
経緯絣の反物にいたっては、300万円ほどと言われています。
一方、「古代越後上布」や「越後上布」は30万円くらいからと比較的お求めやすい価格で手に入ります。
帯
越後上布は、帯もたいへん有名です。
帯でしたら、比較的お手頃な価格で見かけることもあります。
八寸帯でしたら20万円くらいから、九寸帯は30万円くらいからといったところでしょうか。
九寸はより細い糸が使われているので、価格も少しおたかくなります。
八寸帯には帯芯が入っていないので、扱いやすく涼しい帯と言えるでしょう。
越後上布の重要技法「雪さらし」
(出典:https://tabi-mag.jp/echigo-jofu/)
根気のいる長い越後上布づくりの最後の工程が「雪さらし」です。
雪の上に広げられた生地の様子を写真でごらんになったことがある方も多いのではないでしょうか。
南魚沼地方の春の風物詩とされる雪さらしは、晴れの日が多い2月中旬から3月下旬にかけて行われます。
雪が溶けるときに発生するオゾンには、植物性の繊維を漂白する働きがあると考えられており、越後上布の仕上げにはこの雪さらしの工程が欠かせないものとなっています。
午前中に雪上に広げた越後上布を午後には取り込み水洗いし、翌日また雪にさらす…この作業を一週間ほど繰り返します。
オゾンの働きについては現在でも諸説ありますが、越後上布を雪にさらせば白さが増すということを昔の人はすでに知っていたのですね。
越後上布に合う帯
越後上布にはどのような帯が合うのでしょう。
ここでは越後上布の帯合わせについて考えてみたいと思います。
帯をお選びになるときに大切なのは、着物と帯それぞれの格の釣り合いです。
越後上布の着物に合う格の帯は、やはり名古屋帯でしょう。
あまり豪華な帯をお選びになると、越後上布のもつ素朴な風合いを打ち消してしまいます。
このような帯合わせは、着物にも帯にもとても残念なことなのです。
さらに素材や色といった季節感も考えなければなりません。
越後上布は暑い盛りの着物ですので、帯も夏の帯をお選びになるとよいでしょう。
夏の帯には絽・紗・羅などがあります。
絽は一見すると縞模様に見えるのが特徴です。
糸数本ごとに隙間を作って織ることで、この縞模様を作り出しています。
隙間と隙間のあいだの糸の本数によって、縞の幅が変わります。
紗は、絽に比べてざっくりと織られた平織の織物です。
羅はさらにざっくりとした織りで、織ると言うよりも編むと言ったほうが近いかもしれません。
また一年を通して締められる博多帯も、越後上布にはよく合います。
博多帯にはさまざまな色がありますが、夏物の越後上布に合わせるときには、涼しい色のさわやかなものをお選びになるとよいでしょう。
越後上布のコーディネート画像3選
渋めの越後上布×ベージュの帯の素朴なコーディネート画像
素朴な風合いの越後上布の中で、帯に描かれている虫の絵柄に遊び心を感じますね。
白の越後上布×蛙の帯の可愛らしいコーディネート画像
上品さと可愛らしさのバランスが取れたコーディネートですね。
藍色の越後上布×白の格子柄帯のモノトーンコーディネート画像
ドット柄の着物と格子柄の帯で柄の合わせ方のバランスも素敵ですね。
越後上布の洗濯やお手入れ方法
越後上布は麻織物ですので、ご自宅で洗うことができます。
汗をかきやすい夏に、いつもさわやかな状態の着物を着られるのはうれしいことですね。
ここでは越後上布の着物をご自宅で洗う方法について、お話ししましょう。
洗濯機ではなく、手洗いなさることをおすすめします。
大きなたらい、もしくは浴槽に水を張り、あらかじめ少なめの洗剤を溶かしておきます。
お使いになる洗剤は、中性か弱アルカリ性のものがよいでしょう。
洗濯用のネットにたたんで入れることで、型くずれが防げます。
着物洗いの基本は押し洗い。
こすらないように気をつけましょう。
シワになりやすいので、絞らずに大きめのタオルなどで水気を取りましょう。
まだ水が滴り落ちるくらいの状態のまま、大きなハンガーもしくは物干し竿にとおし、陰干しにします。
季節の終わりや汚れが気になるときには、無理に対処しようとなさらず、専門店にクリーニングを依頼なさることをおすすめします。
汗など水溶性の汚れはドライクリーニングでは落とせませんので、クリーニング店に依頼なさるときには、「汗抜き」とお願いなさるとよいでしょう。
越後上布以外の上布の着物や反物
そもそも上布とは、上等な平織の麻布のことを言います。
藩主や幕府へ納めるほどの上質な織物という意味で、上布と呼ばれるようになったとされています。
ここでは、日本各地の上布について見てみましょう。
宮古上布
宮古上布は、沖縄県の宮古島で生産される上布です。
国の重要無形文化財に指定されています。
「東の越後、西の宮古」と言われ、越後上布と並び称される最高級の上布です。
宮古上布の歴史は、16世紀頃にまで遡ることができます。
当時は琉球王朝への献上品として織られていましたが、17世紀初めに薩摩からの侵略を受け、人頭税として生産を強いられるようになっていきます。
明治の後期になってようやく人頭税は廃止されますが、昭和の敗戦以降は宮古上布の国内流通が許されず、産業としての宮古上布は廃れてしまいます。
現在では伝統技法の継承のために組合が結成され、後継者の育成に力を注がれています。
宮古上布の特徴は、南国らしい織り柄と琉球藍で染められた艶のある濃紺の地色です。
独特の艶は、織り上がった生地を木槌で打つ「砧打ち」によって生まれます。
宮古上布の詳しい特徴や価格相場などはこちらの記事で解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【宮古上布とは?】着物の特徴や柄、価格、見分け方、作家を紹介!』
近江上布
近江上布は主に滋賀県で生産される上布で、国の伝統的工芸品に指定されています。
鎌倉時代に滋賀に移り住んだ京都の職人が織物の技術を伝え、生産が始まったと言われています。
江戸時代には彦根藩の保護を受け、近江商人が全国で近江上布を売り歩きました。
これにより、近江上布の名が全国に知られるようになっていきます。
絣模様をつくるため、現在でも櫛押捺染(くしおしなっせん)や型紙捺染(かたがみなっせん)といった伝統的な技術が継承されています。
「シボ付け」という独特加工で生み出された縮の細やかな風合いが特徴です。
近江上布の着物の詳しい特徴や価格相場、着こなしなどはこちらの記事で解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【近江上布とは?】着物の特徴や価格、大麻の生地の歴史などを紹介!』
能登上布
能登上布は、主に石川県の能登・羽咋地方で織られる上布です。
能登縮・安部屋縮とも呼ばれ、紺地・白地の絣模様が特徴とされています。
能登地方では江戸時代中頃まで近江上布の原料となる苧麻を栽培していましたが、1814年に上布の技法を取り入れるため、近江から職人を招きました。
これが能登上布の始まりです。
能登上布の最終工程では、織り上がった生地の糊を海水で落とします。
海さらしと呼ばれ、一昼夜海水に漬けた生地を乾かしまた海水につけるという作業を繰り返すのです。
その後、ケヤキ製の臼に入れ桐の杵でつき、独特の肌ざわりの生地へと仕上げていきます。
能登上布の着物や絣柄の特徴、帯合わせなどはこちらの記事で詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【能登上布とは?】着物や絣柄の特徴、価格相場、帯合わせなどを解説!』
八重山上布
八重山上布は沖縄県の南西部、八重山郡周辺で織られる上布です。
宮古上布と同様に、薩摩藩から生産を強いられていた歴史があります。
明治後期の人頭税撤廃以降は組合が結成され、八重山地方の産業として認められていきます。
昭和の戦時にはわずか数名で技術を伝え続け、1989年に伝統工芸品の指定を受けました。
白地にこげ茶色の絣模様が代表的な柄行きで、染料には八重山地方のヤマイモ科の植物「紅露(クール)」が使われています。
最終工程のさらしは海で行われ、5時間ほど海水にさらされた八重山上布は、より鮮明な色に仕上がるのです。
八重山上布の着物の詳しい特徴や価格相場などはこちらの記事で解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【八重山上布とは?】着物や模様の特徴や価格相場、帯合わせを紹介!』
越後上布以外の新潟の着物や織物
古くから越後上布が織られてきた新潟地方では、越後上布に改良を加えてさまざまな織物が生み出されました。
ここでは、そのうちのいくつかを見ていきましょう。
小千谷縮
小千谷縮は新潟県小千谷市周辺で織られる、たいへん高級な麻織物です。
小千谷縮も苧麻を原料としています。
江戸中期に越後上布を改良して生産が始まりました。
特徴はシボと呼ばれる独特のシワです。
主な柄は控えめな色合いのシンプルな縞や格子で、おしゃれ着としても浴衣としてもお召しになれる便利な着物です。
1955年には国の重要無形文化財第一号に、さらに1975年には伝統的工芸品に指定されています。
小千谷縮の詳しい特徴や着こなしはこちらの記事で解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【小千谷縮とはどんな着物?】特徴や浴衣としての着方、洗濯法を解説!』
小千谷紬
小千谷紬は、江戸時代中ごろに越後上布と小千谷縮、双方の技術を取り入れて織られ始めました。
絹の光沢がありながら、素朴な味わいも兼ね備えています。
柄行は縞や絣が多く、無地のものや白紬もあります。
なかでも「緯総絣」(よこそうがすり)と呼ばれる、緯糸全てに絣糸を使った絣模様はたいへん有名です。
紋様に経糸の玉繭(たままゆ)を重ねることで、淡い柄に仕上げられている生地が多いのも特徴です。
小千谷紬の詳しい特徴や着こなしはこちらの記事で解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【小千谷紬とはどんな着物?】特徴や着られる季節、価格などを解説!』
塩沢紬
塩沢紬は、江戸時代中期に越後上布の技術を用いて、新潟県魚沼市の塩沢地方で誕生した絹織物です。
結城紬・大島紬と並んで日本三大紬のひとつとされます。
結城紬や大島紬と比べると、落ち着いた控えめな風合いが特徴です。
たいへん細かい絣模様が有名で、十字絣・亀甲絣・蚊絣などがあります。
塩沢紬の詳しい特徴や着こなしはこちらの記事で解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『塩沢紬とはどんな着物?特徴や柄、コーディネート画像などを紹介!』
越後上布と小千谷縮の違い
越後上布と小千谷縮は、1955年に「越後縮」として共に重要無形文化財に指定されました。
のちに平織のものは越後上布、縮織のものは小千谷縮と区別されるようになります。
越後上布と小千谷縮のちがいは、表面に現れる独特なシボにあります。
越後上布に使われる緯糸は撚りの弱い糸であるのに対して、小千谷縮の緯糸は強撚糸(撚りの強い糸)です。
織り上がったあとの湯もみという特別な工程で強撚糸に撚りが戻り、小千谷縮にのみ独特なシボが現れるのです。
越後上布の着物の特徴を理解して、美しく着こなしましょう!
越後上布は繊細で上品さのある素敵な麻着物です。
越後上布の素朴な雰囲気に合わせた名古屋帯や夏の帯を合わせると良いんですね!
そうね。
着物の着こなしにはTPOに合わせたコーディネートや格を意識する必要があります。
他の着物の格やTPO別のおすすめ着物はこちらの記事でまとめているので、合わせて読んでみることをおすすめします。