「上布の着物ってどんな特徴があるの?」
「○○上布ってよく聞くけど、どんな種類があるんだろう?」
「上布の着物はどう着こなしたら良いのかな?」
こんにちは。『着物買取女将』のかずよです。
上布の着物は麻で作られた上質な着物で、近江上布や新之助上布、八重山上布などの伝統工芸品に指定されている種類もあります。
私も上布の着物は気になっているのですが、イマイチ違いがよく分からなくて…
確かに上布の着物は種類がたくさんあって、どれが良いのかよく分からないですよね。
でも安心して下さい。
今回は、上布の着物の特徴や種類の違い、帯の合わせ方、コーディネート法など上布の着物について分かりやすくお伝えしていきますね。
この記事の目次
上布とは?着物や反物の特徴
『上布(じょうふ)』とは、「上質な布」のことをいいます。
絹や綿が使われる前、着物の素材といえば葛や楮、麻が一般的でした。
中でも上質とされたのが、「苧麻(ちょま)」から紡がれた細い糸で織られた薄手の麻布で、この布が上布と称されています。
苧麻は天然繊維の中でも強い素材とされていて、絹のような光沢感があるのが特徴です。
上布をつくるには、苧麻を「手積み」で細い糸に加工する必要があり、高い技術が用いられていました。
手積みとは、麻を細く裂いて紡ぎ、撚り合わせることです。
上布は地域によって異なる技法で織られていて、その種類は大きく6種類に分類されています(種類ごとの説明は後述しますね)。
- 近江上布(新之助上布)
- 八重山上布
- 宮古上布
- 薩摩上布
- 能登上布
- 越後上布
上布の歴史は古く、中でも能登上布は2000年以上も前からつくられていたとされています。
上布は薄い麻布であるその特徴を生かして、今では夏の着物として有名なものが多くあります。
上布の着物は伝統的な技法でつくられているので、着物の中でも高価な一枚と言えますね。
上布の模様は絣や十字絣が多い
上布は様々な地域で古来から織られている麻布です。
上布からつくられた着物の模様も地域によって多種多様ですが、中でも絣(かすり)や十字絣(じゅうじかすり)が多いとされています。
絣とは、かすれたような部分が等間隔に配置された模様のことです。
絣模様を表現するためには、布を織り上げる前の糸の段階から、仕上がった時の模様を考えて糸を染める技法が一般的です。
布を織り上げる前の糸の段階で染色する技法は「先染め」と呼ばれていて、布の段階で染めた着物よりも強度が強いとされています。
例えば越後上布でも、この先染めの技法を用いて絣模様の上布をつくります。
絣模様で表現される模様の形も地域によって特色があります。
越後上布の絣模様は「織紋」と呼ばれています。
他にも絣模様には、「亀甲絣」「十字絣」「蚊絣」「幾何学模様」など豊富な種類が存在しています。
平織の上布は絣模様を施すのに向いている布のため、多くの地域で絣模様が採用されたのかもしれないですね。
上布の着物の格
上布の着物は紬(つむぎ)と同様に普段着やお洒落着として着るのが一般的です。
また、上布は薄手の麻布であることから、気温の高い7〜8月の夏場に着るのが最適とされています。
夏の和服と言えば浴衣をイメージすることかと思いますが、上布は「夏でも着物が着たい」といった要望に答えてくれる着物でもあります。
【6種類】上布の着物を紹介!
ここからは、日本全国に点在する有名な上布についてご紹介をします。
どれも古来からつくられて上布で、それぞれに歴史と特徴があります。
近江上布、新之助上布
「近江上布」は現在、滋賀県の湖東地区で主に生産されている伝統工芸品です。
生産されているのは着物だけではなく、服地向け上布、ふとん・座布団・シーツ向けなどの様々な製品を上布で生産しています。
麻繊維特有の爽やかな着心地と手触りが魅力です。
近江上布の歴史は、鎌倉時代に京都の職人が移り住み技術を伝えたことが始まりとされています。
江戸時代には彦根藩(ひこねはん:今の滋賀県)の保護政策のもと、農家の副業として着物の布地や蚊帳地などがつくられました。
そして農家がつくった上布を近江商人が全国で売り歩いたことによって認知、有名になっていきました。
近江上布は、苧麻を原料にした紡績糸(ぼうせきいと)で主に製作されています。
この紡績糸は手積みで紡がれていて、先染め、平織りの工程を経て仕上がっていきます。
ちなみに近江上布の絣模様をつくる際は、櫛押捺染(くしおしなっせん)または型紙捺染(かたがみなっせん)の技法を用いることが定められています。
また、織りあがった反物には「シボ付け」という近江独特の生地を縮ませる加工が施されます。
近江上布の着物の詳しい特徴や価格相場、着こなしなどはこちらの記事で解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【近江上布とは?】着物の特徴や価格、大麻の生地の歴史などを紹介!』
そんな近江上布のなかでも有名なのが、大西新之助商店の「新之助上布」です。
新之助上布は、大西新之助商店が2004年に商標登録をしたオリジナルブランドです。
新之助上布は、近江上布が指定する技法に縛られない様々な方法で製作されています。
例えば、半手動のレピア織機を導入することで製作時間を短縮し、安価に上布の着物を販売したりしています。
一方で、高品質向けの客層に対して、手間と時間をかけて織りだした型紙捺染の絣柄の着物も販売しています。
手で描いたかのような色のにじみが特徴で、非常に素敵です。
八重山上布
「八重山上布」は沖縄県本土から南側に位置する諸島、八重山群周辺で織られている上布です。
八重山上布の特徴は、その土地の苧麻で紡いだ糸に紅露芋の色素で絣模様を染め上げていることです。
草や花などの自然素材を用いて染色することは「草木染め」といって、八重山上布は紅露芋で染めることによって茶色をしています。
そんな八重山上布は17世紀初め、鹿児島県西部の薩摩からの侵略と人頭税によって強制的に上布を織らされたことがきっかけで、技術が向上したとされています。
人頭税が撤廃された明治の終わりには組合が結成され、八重山群の産業として盛んになりました。
その後の戦争時は数名でなんとか技術を伝承し続け、1989年には伝統工芸品の指定を受けるまでになりました。
八重山上布の技法は苧麻から紡いだ糸を使って先染めをして、八重山独自の機織りで織られます。
この機織り機は「八重山式高機」といって、経糸(たていと)の張りをおもりを使って微調整ができるのが特徴です。
おもりのおかげで、仕上がった八重山上布の絣模様はズレが少ないとされています。
また、織りあがった布の色の発色を良くするために行われる「さらし」も一般的には川ですが、八重山上布は海で行います。
この方法は「海晒し」といわれ、海に布を5時間さらすことで不純物が取り除かれて、白地はより白く、染めた色はより鮮明になる効果があります。
八重山上布の絣模様は、藍染の白絣や茶染の白絣などが有名です。
海晒しによって鮮やかな白地が美しいが綺麗な着物になっています。
また沖縄県には八重山上布以外にも、宮古島の赤縞上布や石垣島の紺縞細上布などがあります。
どれも細い麻糸からつくられていて、生地が軽いものほど高価といわれていますよ。
八重山上布の着物の詳しい特徴や価格相場などはこちらの記事で解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【八重山上布とは?】着物や模様の特徴や価格相場、帯合わせを紹介!』
宮古上布
「宮古上布」は沖縄県宮古島でつくられている上布です。
一反を織り上げるのに2ヶ月以上の手間がかかるとされていて、上布の中でも最高級とされています。
宮古上布の質は上布の中でもトップクラスのため「東の越後、西の宮古」と称されるほどです。
そして、そんな呼び名もあったためか重要無形文化財の指定を受けています。
宮古上布は16世紀頃にはすでに存在していたとされています。
古くは琉球王国への献上品として織られていました。
しかし八重山上布と同様、薩摩からの侵略によって強制的に織られるようになってしまいます。
その後、人頭税は撤廃され宮古島の産業してスタートをしました。
しかし、昭和時代の沖縄戦に敗北したことによって宮古上布の国内流通が禁止されたため、産業としての宮古上布は廃れてしまいました。
宮古上布の生産自体は今でも続いていて、後継者育成事業として毎年研修生を募集、育成を行っています。
宮古上布の特徴は、南国の自然をモチーフとした織り柄と黒に近い濃藍の艶のある深い色合いです。
独特の艶は、織りあがった布地を水洗いする際に澱粉をまぶして木槌で一万回叩く「きぬた打ち」によるものです。
宮古上布は染めて乾かす作業を一週間繰り返して丹念に染め上げます。
非常に手間をかけたから、深い藍色を表現できるのでしょうね。
宮古上布の詳しい特徴やコーディネート法などはこちらの記事で解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【宮古上布とは?】着物の特徴や柄、価格、見分け方、作家を紹介!』
薩摩上布
「薩摩上布」は鹿児島県の特産として流通した麻布です。
ただ実際には、薩摩上布は沖縄県で生産されたものです。
17世紀に薩摩が琉球を占領し、琉球の国民につくらせた八重山上布や宮古上布を薩摩藩が本土に搬入しました。
薩摩藩は幕府への上納品として琉球の上布を薩摩上布と名付けて納めていました。
もともと琉球でつくられていた上布は非常に上質だった上に、南国特有の色合いをしていました。
そのため、薩摩上布は江戸時代から最高級の麻布として重宝されました。
薩摩上布は今では、八重山上布や宮古上布と同じ意味合いで用いられるのが一般的です。
そのため先ほどもご紹介した通り、八重山上布や宮古上布は今では数が極めて少ないとされていて、産業目的ではなく伝統技術の保存継承が主となっています。
能登上布
「能登上布」の主な産地は石川県鹿島町・鹿西町・羽咋市です。
昭和初期には生産量のピークとなり、麻織物の生産全国一を誇っていました。
また今でも数多くの上布をつくり続けていて、質と量ともに日本屈指の手織り上布とされています。
1960年には石川県の無形文化財の指定も受けました。
能登上布は1814年に近江(滋賀県)から職人を招いて、上布の技法を導入したことからはじまりました。
それまでの能登地方では苧麻の栽培をしていて、江戸時代中頃までは近江上布の原料として重宝されていました。
能登上布は、海晒しで織り上げた布の糊を落とす技法が有名な麻織物です。
能登上布の海晒しでは、一昼夜海水に漬けては乾かす作業を4、5回繰り返します。
その後、ケヤキ製の臼に数反投入し、桐のきねでつきます。
その後もお湯をかけながら足で踏んだり、真水で洗ったりします。
手のかかる工程を経て仕上がる能登上布の特徴は、さらっとした肌触りと着心地にあります。
また能登上布の絣模様は様々な技法を用いて表現されます。
さらりとした着心地は、昔から糸の原料となる苧麻を生産していることもあって、質の高い麻布からつくられる能登上布ならではの特徴とも言えますね。
能登上布の着物や絣柄の特徴、帯合わせなどはこちらの記事で詳しく解説しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【能登上布とは?】着物や絣柄の特徴、価格相場、帯合わせなどを解説!』
越後上布
「越後上布」は新潟県南魚沼市と小谷千市を中心につくられている麻織物です。
上布の中でも歴史が古く千数百年にも及ぶとされています。
その証拠に、奈良の正倉院に「越後の麻布」という記載があります。
古くから技術が伝承されていることから上布の中でも非常に質が高いとされていて、1955年に重要無形文化財の指定を受けました。
越後上布の生産が盛んとなったのは、1573年の安土桃山時代に上杉氏が越後で上布の原料である苧麻の栽培を推奨したことでした。
ちなみに越後上布は平織りが一般的ですが、縮織と呼ばれる縮布を用いた織物も存在します。
今ではこの縮織は「小千谷縮」と呼ばれていて、越後上布とは別の織物として分類されています。
ただ、この上布と縮布の違いはたった一つで、縮布に用いられる緯糸(よこいと)の方が強い撚糸となっている点だけです。
それ以外の原料や製法には大きな違いはありません。
そんな越後上布の製法での特徴は、織り上げた布を「雪晒し」で漂白することです。
雪晒しとはその名の通りで、布地を雪に晒すことです。
雪で布を濡らすことで不純物を取り除くことで、染めた色をより鮮明に表現できるわけです。
雪国である新潟県独自の製法といえるのではないでしょうか。
越後上布は上質な苧麻糸と古来から伝わる技法を用いて作られるため、上布の中でもトップクラスの品質を誇っています。
手触りも格別で、ほどよい張りを持ちながらふわりとしてした質感が特徴ですね。
越後上布の着物や柄の詳しい特徴や価格などはこちらの記事で紹介しているので、興味のある方はぜひご覧下さい。
>>『【越後上布とはどんな着物?】特徴や価格、雪さらしなどについて解説!』
上布の着物には半幅帯や名古屋帯が合わせやすい!
上布の着物に合わせる帯としては「名古屋帯」や「半幅帯」がおすすめです。
帯を選ぶ際に大切にして欲しいのが、「着物の格」と「素材の色」です。
帯は着物の格に合わせて種類を選ぶのが一般的で、上布の着物の格としては割とカジュアルな普段着のため、名古屋帯や半幅帯やぴったりです。
名古屋帯とは名古屋で考案された女性用帯の一種です。
フォーマルな場面で着付ける丸帯よりも短めなのが特徴で、軽くと締めやすい帯です。
(参考:『丸帯とは?特徴や値段、結び方から袋帯との違いまで詳しく解説!』)
半幅帯は名古屋帯などの一般的な帯よりも幅が半分程度しかないのが特徴です。
夏の季節に締める帯は「夏帯」といって、絽や紗、麻などの種類があり、通気性のよい素材や織り方でつくられているのが特徴です。
例えば、絽は織り方が特徴的で経糸と緯糸を数本おきに隙間を残して織られています。
ほどよい透け感があって、蒸れにくい構造になっているのが特徴です。
素材としては絹糸から化学繊維のポリエステルまで幅広いので、お試しにポリエステル素材の絽を着付けてみるのも良いかもしれませんね。
着物の格に注意しながらも着物の模様や柄に合わせた帯選びをすると、全体としてのコーディネートのバランスが良くなりますよ。
夏の着物には上布の浴衣がおすすめ!
麻布特有のシャリ感があり通気性も抜群なので、上布の浴衣は夏に最適です。
例えば、近江上布の浴衣だったらインターネットなどで浴衣・帯などがセットで約30,000円で購入することができます。
「ワンランク上の浴衣を着てみたい」
「帯と浴衣の組み合わせで失敗したくない!」
と思っている人はぜひ試してみてはいかがでしょうか。
上布の着物はお家でも洗濯できる!
「高級な着物は洗濯できない」というイメージがあるかと思いますが、上布はご家庭で洗濯ができます。
ただ、初めて水を通す時に生地が縮むので注意が必要です。
仕立てをする時は仕立ての前に水通し、湯通しなどをして縮み止めの加工が必要になります。
実際に洗う際は中性洗剤を使って、手で優しく押し洗いをしましょう。
決して洗濯機で洗わないようにしてください。
洗濯機の場合、生地が大きく縮んでしまったり、縫い目のダメージを与えてしまう可能性があるからです。
また、染色が落ちる可能性もあるので、他の洗濯物とは分けて洗うのが無難です。
脱水に関しては、洗濯機の脱水機能で問題ありません。
ただ、完全に脱水しきらずに、少し水分を含んだ状態にとどめましょう。
着物には型があり、型が崩れてしまうと着にくいうえに、着付けたときの見栄えも悪くなってしまいます。
着物の型崩れを防ぐためにも、着物を干す時は着物ハンガーにかけて干しましょう。
少し水分を含んでいる状態で干すことで、水分の重みで洗濯ジワを伸ばすことができます。
また、着物の退色を防ぐため、風通しが良くて直射日光が当らないところで陰干しをするのがオススメです。
ちなみに、タンブラー乾燥などの乾燥機を使うのは厳禁です。
布地が縮んでしまうからです。
また、上布などの麻着物は着用した時にできる着ジワが魅力の一つです。
着ジワだけが気になる人は洗濯をせずに、着物を着物ハンガーにかけて気になる着ジワに霧吹きを軽くかけてみてください。
着物に水分を含ませることで、自然にシワが伸びて元に戻ります。
自分で洗濯するのに自信がない人の中には、クリーニングに出すことを考えていることかと思います。
その際は、麻布特有のちぢみ生地の扱いに慣れているお店を選ぶようにしましょう。
「よく利用するお店だから」という理由だけで、普段のクリーニング店に着物を出すのは気をつけましょう。
上布は麻を素材としてつくられている、本来は丈夫で水にも強い素材です。
ご紹介したポイントに注意をして洗濯をすることで、独特の風合いが出てくるのも上布の魅力です。
毎年少しずつ変化する上布の着物をぜひ楽しんでみてくださいね。
上布のコーディネート3選
越後上布に藍色の帯を合わせたシックなコーディネート
水色の新之助上布に黒色の帯を合わせた爽やかで淡いコーディネート
カジュアルなピンクの新之助上布コーディネート
上品な上布の着物を着こなして、コーディネートを楽しみましょう!
上質な麻着物である上布の着物は、カジュアルな普段着として人気です。
新之助上布や八重山上布などの伝統工芸品の種類も理解できました!
それは良かったわ。
もしも上布の着物を購入する場合は、着なくなった着物を買い取ってもらうことをおすすめするわ。
着物は保管するのが難しく年々劣化してしまうから、もしも売る場合は「今」が一番価値が高いのよ。
私も実際に6社の着物買取業者に査定してもらったら2倍以上も買い取り金額が変わったので、まずは無料で査定してもらって着物の価値だけでも確かめてみるのもありですね。
私の体験談はこちらの記事にまとめているので、興味のある方はぜひご覧下さいね。